たとえば、こんなむかしばなし




 昔々ある所にサンライズ国というとても大きな国がありました。
 その国に在る連邦地方のアルビオン領は、隣り合ったジオン地方のデラーズ領と仲が悪いのです。 つーか、仲悪くさせられました。

「こぉのボケ兄貴ぃ!」
「はっはっはっ!まだまだ甘いぞサイサリス!!」
「その名で呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ふぇ〜〜、にいちゃんたち、けんかだめ〜〜〜〜」

 素直になれない次男と、大らかで大ざっぱで気楽な長男との間にはいつしか奇妙な溝が発生し、グレた次男は腹癒せにジオン地方に行ってそこで悪い事をしながらお兄さんを困らせようとします。
 しかし、お兄さんはその辺を物とせず、可愛い弟のわがままと笑顔で付き合っているのでありました。
 こうして、長きにわたる連邦VSジオンとの抗争の間におこった兄弟げんかはばかばかしくもほがらかに現在へいたります。

それはさておき。

 アルビオン・デラーズのみならず、何故かこの国には敵対する領がけっこう多いのです。
数ある中に、カイザーズという領が勇者地方にありました。
 ここの統治者の名はエクスカイザーといい、正義感と天然ボケが見事にまっちした性格をしていました。
 まだ若いながらも部下をまとめ、同世代や年下の部下達から尊敬と敬意と愛情に包まれて、守るべき領土と市民の為に日々敵対する領と戦っています。
 そんな彼の部下に、二人の戦士がおりました。
 一人はスカイマックス。もう一人の名はダッシュマックス。
 彼らは以前、さらにもう一人の仲間ドリルマックスと共にウィルドー領の戦士でしたが、ある日自分達の前に現れたエクスカイザーに一目ぼれ…じゃなくてその心意気に惹かれ、弟妹の居るドリルを説得して彼の部下になったのです。
 二人は共に暗黙の了解を結びました。
 [エクスカイザーにかかろうとする火の粉は全て抹殺!]
 である。この再、自分達も火の粉の一部であるという事は置いておこう。
 彼らは、動物に例えるなら子犬、純真で生真面目で自覚なしの天然ボケで、どこか抜けているがしっかり者のエクスカイザーを、瞳のなかにいれても痛くない程に心から愛しているのです。
 そんなある日。
 四つ左隣のブレイブ領では、不慮の事故で長期入院&面会謝絶&危篤&記憶喪失だった領主デッカードが奇跡的に回復したのです。
 これにより、領主不在中に起きていた騒動は解決され、また新しくやってきたデュークという騎士の就任も決まったのでした。

『新しい仲間も増え、我々の団結心も高まった。そこで、デッカードの回復とデュークの就任を祝いパーティーを開こう』

 と、いう訳で立食のオープン形式(誰でも来てOK)を取り、ブレイブ領主デッカードは、右4つ隣のカイザーズ領から左5つ隣のアスタリア領までの計9領に手紙を出しパーティーを開く事にしたのです。
「パーティー…行くのか、エクスカイザー?」
「そうだな。久しぶりに後輩に会えるかもしれない」
 流しの郵便配達人から手紙を受け取ったエクスカイザーは、達筆で書かれた手紙を見ながら答えました。
「わかった。で、同行者は?」
「決まってるじゃないか、皆で行こう」
 皆とは、エクスカイザーの直接の部下である、スカイマックスをリーダーとするマックスチームと双子の兄弟・レイカーブラザーズの事です。
「全員で、か?」
 スカイマックスが聞き返す。
「だって誰か残していったら不公平じゃないか?まさかレイカーブラザーズを片方だけ連れて行く訳にはいかないし」
 エクスカイザーらしい言いです。たしかに、あそこへ行けないのは悔しい気がするとスカイマックスも思いました。
 しかし、彼はエクスカイザーがパーティーに行く事を反対していました。
 何せ各領にはマッハランダーやガードウィング、スターシルバーにダグアーマーといった手の早い奴はもちろん、自分達のようにエクスカイザーへ好意を持つ輩がけっこういます。
 そんな奴らの前へ愛しいエクスカイザーを連れだすのを、危険な戦場に立たせるよりも不安だったのです。
 しかし、この事を面と向かって言える筈もなく、スカイマックスはしぶしぶと返信の手紙を流しの郵便配達人へ渡しました。
 もちろん、出発の日までダッシュマックスと火の粉を散らす計画を立てていたのは言うまでもありませんが…

******

 数日後、ブレイブ領のお城ではパーティーが催されました。
 楽団が華麗な音楽を奏で、紳士や婦人達のステップを軽やかにエスコートします。今宵は無礼講…という訳ではありませんが、各地の領主達の方針で最初からくだけた雰囲気でパーティーは始まりました。
 勇者地方の10領、カイザーズ・セキュリティ・ガーディアン・エクスプレス・ブレイブ・レジェンドラ・スクール・GGG・セイント・アスタリア。今回は滅多に集まらない10領主全員が顔を合わせたという事で在り盛り上がっています。
 それに、ブレイブ領は他の領と比べ、大いに目を引く部分がありました。それは…
「ああ、美味しい…」
「このクラムチャウダー、レシピ教えてくれないかな」
 招待客は口々に言います。
 そうです、ブレイブ領の領主と重臣達は、全員料理の達人なのでした。
 前菜担当シャドウ丸。メイン担当ビルドチーム。女性向料理担当ガンマックス。デザート担当デッカード。カクテル担当カゲロウ。
 そしてデュークがハーブ料理担当。
 事実、これが目当て故にここまで大人数が集まったと言っても過言ではありません。
「エクスカイザー先輩」
「やあファイバード。元気だったかい?」
「相変わらず元気でやっています。先輩もお元気で何よりです」
 カゲロウ特製ノンアルコールカクテルをおかわりした時に、隣から呼び止められました。
 左一つ隣の領、セキュリティ領領主で彼の後輩ファイバードです。
「聞いたよファイバード。何でも各地を占領しようとしたドライアスの軍を撃退したそうじゃないか?」
「ご存知なんですか?まだ他の領に報告していないのに」
「報告だけが事実を知る術じゃないさ。この事は、城下へ視察に行った時に耳にしたんだ。一般市民の情報網は私達のよりも早い」
「肝に銘じておきます。それにしても大変でした。何せ帰って来たら全員『病院送り!』と宣言されちゃってノ今でもガードレスキューが入院中でウィングが看病の為に残ってるんです」
 内容はともかく朗らかに会話する二人。
 暫く話し会っていたが、エクスカイザーに気付かれないようにファイバードは周りを見渡した。
「所で、先輩。今夜は星が綺麗です。一緒に見に行きませんか?」
「星か、そうだな…」
 悩むようにしながらカクテルを飲む。
 この時、彼は解らなかった、視界が反れた一瞬だけファイバードは不敵に微笑んだ事を。
「エクスカイザー」
 しかし、その笑みもまた一瞬で消える。
「ス、スカイマックス!」
 何時の間に現れたのか、スカイマックスがワイン片手に二人の会話に割り込んだ。
「先ほどここの部下が言っていたのだが、デッカードがお前に話があるらしい」
「そうか、では行かなくてはならないな。すまないファイバード、また後で」
 スカイマックスにグラスを預け、エクスカイザーは会場の外へと歩いていった。
「あ、先輩!」
「ファイバード、このムニエル美味いぞ。一緒にどうだ?」
 取皿にムニエルとサラダを乗せるスカイマックス。
(甘いな若造)
(このひっつき虫)
「ヴィシソワーズも中々」
 表面下の戦いが、始まろうとしていた。



「ふふふ、今度こそ…」
 城の近くの森の木陰の暗がりに誰か隠れていました。
 黒いドレスを纏った中々の美人です。
 男の人ですが。
 彼の名はダイノガイスト。勇者地方に存在するガイスターズ領の領主です。
「エクスカイザー!俺の嫁になれ!」
「「やかましい!エクスカイザーは俺のだ!」」
 と毎度の如くカイザー様に告白する前に例のひっつき虫、スカイマックスとダッシュマックスに阻止されて、今度こそはと意気込んでは来たものの、顔がわれているので女装の方が怪しまれないという事で女装したのです。
「今これを呼んでいる美しいお嬢さん。これは擬人化ではない。貴方がたの世界観と多少ずれているのでご注意を」
 誰に言っている、誰に(汗)
「エクスカイザー、わが宝よ。今宵こそ、このダイノガイストが至宝の喜びを教えてやろう」
 楽しみに待っていろ、と続けかけて口紅をチェックします。
「おい、大丈夫かダイノガイスト?」
「案ずるな。上手くやってみせる」
 ダイノガイストに話し掛けるもう一つの影。
 ダイノガイストの友人(悪友)で先日ファイバードにめっためたに叩きのめされたドライアス様ご本人。いちおう彼はダークサーガ領主ですが、顔はわれていないので多少変装して進入するそうです。
「ダイノガイスト…頼むから私の邪魔だけはしないでくれ…いいな」
「心配はいらん、俺を誰だと思っている………まあ、この美貌にかかれば雑魚共など他愛もない」
 ダイノガイストは自信たっぷりにいいました。
「しかし……」
 ドライアスはその言葉に頷くと、女装したダイノガイストをしげしげと見つめた。
「お前、けっこう可愛いな」
「怒るぞ…俺は上だ」
「この作戦が失敗したら…」
「却下!」
 息の在ったコンビネーションで語り合う悪友二人。
「とにかく行くぞ。お互いいつ何が起きてもいいように気を抜かずに。いいな」
 そう言って行ってしまったダイノガイストの背中をドライアスはだまって見つめていました。



「スカイマックス」
 ダッシュマックスが、ファイバードと水面下の戦いを繰り広げるスカイマックスの元へとやってきました。
(小声で)「なんだ、ダッシュマックス」
(同じく)「予定通りエクスカイザーはデッカードの所だ」
(同上)「そうか、私は今こいつにかかりっきりだ」
 スカイマックスはそう言うと一瞬だけファイバードを睨みました。
 ファイバードも解らないように目をそらして食べ続けます。
(以下略)「他の奴らは?」
「エースバロンがドランと子供の相談、スターシルバーがジェットシルバーに説教くらってダグアーマーがダクターボだ」
「了解した」
「俺はこれから外回ってくる。後よろしく」
「おう」
 表面だけは笑って口調は冷静に言うと、ダッシュマックスは早速行ってしまいました。


******

「んふふふ、すてきなお兄ちゃんがいっぱいだぁ♪」
「バーンさんとスペリオンさん…すてき」
「お前達、今夜はやめておけ」
 スコーンを食べながら、獲物をチェックする美女二人。
 それを悩みながら見ている紳士が四人、殆どヤケで食べまくっていた。
 ブレイブ領から三つ隣のGGG領に所属する『竜の六兄妹』である。
 長男氷竜と次男炎竜、三男風龍と末弟雷龍、そして長女光竜次女闇竜の三組がそれぞれ双子という、珍しい兄弟構造だ。
 無論、珍しいのはそれだけでは無いが。
「いやぁ〜ん、あの子超可愛い〜〜♪」
「スクール領のガンキッドさんと言います。戦争孤児でライアンさんが引き取って育てているそうです」
「やーん、紫の上みたい!」(注 『源氏物語』の光源氏は若紫という幼女を引き取り、自分好みに成長させてから手を出したのだ)
「光竜、闇竜…」
「帰りてーよぉー」
 氷竜お兄さんと雷龍お兄さんは情けない声を出してしまいます。
 マイペースな炎竜お兄さんと風龍お兄さんもどこか落ち着きがありません。
 サンライズ国では、同盟を結んだ領同士以外では戦いが絶えずにいました。しかし、この戦乱乱れる時世にも、敵味方の区別無く平和に過ごせる機会という物は確かに存在します。
 その中の一つに「同人誌」がありました。
 構成員の殆どが女性で、たまには真面目なのもありますが、大抵の活動内容はやおいと呼ばれる男性同士の………な行為を表現した書物を書くそうです。
 GGG領の光竜・闇竜は各地に広まる同人仲間でも、『シャセールの三女神』に数えられる有名人でした。
 その人気故にコミケではすぐ完売。いちおう通販もしていたのですが、余りにもの申し込み数に郵便機関から自粛を告知されて現在休止中。
 なまじ同性(男性限定)での恋愛が影で流行っているので、同人娘達の勢いは留まる事を知りません。
 そして、彼女達のアイディアはもっぱら身内を使用していたのです。
 GGG領では、領主のガイガーと流れの剣士ジェイダーが密会を続けていますし、ボルフォッグは従兄弟で妻子持ちのポルコートと不倫中。堅物のゴルディーマーグは軍関係の名家サウンダース家の末っ子のマイクとラブラブ。しかも、氷竜お兄さんは炎竜お兄さん、風龍お兄さんは雷龍お兄さんと実の兄弟同士でデキてしまっていたのです。
 この事実を不幸にも知られてしまったお兄さん達ですが、まさか可愛い妹相手に口封じは出来ませんし、『グッズで売っちゃおうかなー?』とテープとか写真とか何処にでも売っている某関西弁の商人が見向きもしないような物で何故か脅されているので、二人の暴走を抑える事は出来ません。
 今回のパーティーも、本当なら男性が多いので出席を辞退するように勧めていました。ですが、美形ぞろいと噂される各領主の噂をどこで耳にしたのか、『ネタある所に光と闇の竜が在り』の精神に脅されて、我が身かわいさでしぶしぶと許可したのでした。
「えーと誰だっけ、金色ボディでナギナタ持ってるの?」
「レジェンドラ領のレオンさんです。あの方……」
 そっと、小声で光竜の耳元に告げる。
「パートナーは、カイザーというライオンだそうです」
「それって、獣姦?」
「多分、下ですね。ああいう高飛車な方ほど、野性的・屈辱的な愛撫に乱れるものです」
「獣かぁ。じゃあホークセイバーと空影は?」
「お二人は鳥です。それでは相手を羽交い絞めに出来ませんし、何より下では立つモノも立ちません」
「だったらペガサスセイバーなんかいいんじゃない?」
「半人半馬ですか?アイディアとしては良いですが、合体個所に難がありますね」
「こんな妹やだぁ〜〜〜っ!」(激涙)
 氷竜達は、心の中で何千回目の悲鳴を上げた。


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