逆らえない そう思った
隻眼の瞳が覗きこめば、蛇に睨まれたように硬直し
灰色の唇が言葉をつむぐと素直にしたがってしまう
今宵も、その巧な口術と魅惑の瞳に惑わされ
深く闇へと落ちて行く


逆らう術は無い


荒れ果てた工業地帯。
半分以上崩れかかった屋根から照らされる、夜空に彩る佳月を浴びしうち捨てられた前世紀の機械達。 かつては色鮮やかであっただろうその姿は、降り注ぐ雨と風にさらされて、赤茶けた錆に包まれている。 命無き生命の墓場。そんな言葉が良く似合う。
「もっと…そう……すてきだよ。とても…」
辛うじて腐食が免れたコンクリートの上。
無機質の身体へ命を宿した男は、己の存在を命無き者達に見せつけるように佇んでいた。
新緑を思わせる、透き通る北欧の木々の色をした姿には、自然界には有り得ぬ硬さを誇る鋼鉄の纏服。薄桃色の瞳と、天を降る雪の様に白い肌。
男は笑っていた。微笑みの先、地にひれ伏す青年へ、満足げに笑っている。
男が新緑を思わす深き緑の姿ならば、彼は闇夜を彩る月色の姿をしていた。男と同じ薄桃色の瞳。そして天を降る雪のように白い肌。
少年と青年の狭間を揺れるような姿は今、男によって与えられる行為を一身に見に受けていた。
逃げる腰を押さえつけられ、閉じられていた筈のその場所へ、灼熱の硬さを持つ塊が深々と埋め込まれ、弄ぶかのように進入する。
その度に男は身を屈め、しがみ付くように彼の下腹部へと、引き裂くように腰を打ち付けた。
貫く度に男の物はその勢いを増していく。
生き物の様に暴れまわり、幾度と無く呪縛の証を注ぎ込む。
それは、快楽という名の苦痛だった。
「あう……も………や…だ……」
彼は泣き叫ぶ。苦しみ、許しを請いながら、自らをいたぶるように犯しつづける男へ哀願の言葉を紡ぐ。
「許し………お願い…」
鼻にかかったような悩ましげな声を立てては苦しむように啜り泣き、しなやかな腰がゆっくりと上下する度に、触れ合う金属の肌に、キシ、キシと掠れた音が部屋に響く。
その度に、黄を基準とした体が過ぎる快楽に狂い悶え、陶磁器のように白い顔を激しく振るう。
「ぁあ………ああぁっ!」
内部を突き上げる衝撃に、全身がガクガクと痙攣している。尽きることの無い、嵐のような感覚に、自らの体がついてゆけないのだ。
飲み込む事を忘れた唾液が唇の端から伝い落ちていく。
はたして、その唇から何度悲鳴が上がった事か?悩ましげな表情を見せつける度に、いや、細い腰を揺り動かす度に、彼はその顔を苦痛と快楽に歪める。
心とは裏腹に、入り口は凝縮し、男の物を締め付け、全身に電撃のような感覚が駆け抜ける。
快楽を超えた苦しみが、全てを包み込もうとしていた。
「ぅあぁぁっ…あーーっ!」
苦痛に赤い瞳が見開かれる。ぐい、と男は腰を掴み、体を強く引き寄せた。
一つ小さいうめき声を漏らすと同時に、体内で暴れ狂う快楽の源が大きく膨らみ、先端から熱い雫が焼け焦がさぬばかりに解き放たれる。
「あっ…あぁ……ぁあ…ぁ……」
陸に上げられた魚のように苦しげに口を開く。二度…三度と痙攣し、彼は力なく冷たい床の上に崩れ落ちた。
先端からは今でも、熱い液体が注ぎ込まれている。
「…ぅ……ひっく…ひっく……ふぅ…ぅ…ふぇ……ひっく」
瞳から溢れる涙が頬を伝い、小さな水溜りを作る。子供のようにしゃくりあげ、終わりの告げた体を、荒く胸を上下させながら、悲しみに瞳を滲ませた。
「気分はどう、雷龍」
男は、泣き崩れる彼に楽しげな視線を向けて、優しく頭を撫でてやった。
まだ若く、それでいながら全てを見下ろす視線をもった男は、つながったまま、床の上で泣き崩れる彼を視線で嬲りながら優しささえ思わせる笑いをかける。
「とっても、気持ちよかったよ」
額に口付けを落とす。そのままゆっくりと、項、肩、背筋と唇を這わし、頬に軽く口付けた。
「…………て……」
「ん?何か言ったかい?」
耳元に唇を下ろし、繋がれた秘所へと指先を這わす。
「……もう…許して……風龍…」
虚ろげに沈んだ瞳から、絶え間なく淡い涙が頬を滑る。
「どうして?」
雷龍に問い掛ける。
「僕をこんなにくわえ込んで、今更何を言うんだい?」
と、繋ぎ目を指の腹で撫でた。そこは雷龍の内部から滴り落ちた液と、風龍から放たれた体液が混ざり合い、粘りのある液体となって、深く、熱い鼓動を伝えていた。
「ここをこんなに濡らして……雷龍、君だって楽しんでいるんだろうし………」
くく、と含み笑いをもらす風龍。その言葉にぎゅっと唇を噛み、雷龍は苦しそうに叫んだ。
「こんなの……いい訳が無いだろう!」
額に皺をよせて。風龍の方へ振り向いた。
「俺を、無理やり……嫌だって…言ったのに…………」
泣きじゃくりながら、雷龍はつながれた自らの秘部へ視線を移した。見れば、雷龍が下腹部から見せる両足の付け根には、風龍と同じ位の物が、身に起きる快楽を象徴するかのように首をかしげている。そこはすでに怒張していて、今にでも達してしまいそうだった。
が、
「こんなの…嫌だ………」
首筋の根元には、特殊合金で作られた細い鎖が、達する事を許すまいと固く縛り付けられている。
「風龍……」
「だめ」
黙って聞くだけ聞いておきながら、雷龍の頼みを言い退けるその口調は面白がっている含みがある。
「雷龍、君は昼間においたをしたでしょう?僕は先輩達から後できっちり叱っておけと言われたんだよ」 残酷なまでに屈託の無い、笑顔。
「だから、僕はこうやってお仕置きしているんだよ。たとえばほら、こんな風に……」
止まっていた腰が動き出す。だが先程のように激しくはなく、根元から半分までを、ゆっくりと出し入れさせる。
余りにものスローペースに、雷龍は瞳に目眩を覚えた。嫌がるよりもむしろ体の渇きを自覚させられ、すぐに満たされない苦痛が更なる悲鳴を呼び起こす。
風龍は開放する事が許されない場所へと手を伸ばした。
扱く様に手淫を与えると、背筋から四肢へと、軽い電流が流されたかのように痺れが走る。
ビクビクッと、引きつった痙攣を起こすが、やはり開放する事はできず、ただ苦しみを増したにすぎない。
「……た………い……」
「ん?」
「いた…い……痛…い……」
本来ならば、白濁した液体が溢れ出し、開放を表す場所なのに、その入り口は今、固い鎖に押さえつけられている。
「どこか苦しいの?」
寄添った雷龍の耳元で、風龍はぽつりと呟いた。
「変だな?僕には『気持ちいいからもっとして』という風にしか見えないよ」
指先の動きが速さを増す。しゅっ、しゅっと音を立てて、雷龍の物はより一層と空を仰ぐ。
「ひぃっ……」
小さく悲鳴を漏らす。
繋げられた体が熱い。嵐の前の静けさのように、体の奥深くでじわじわと、次なる快楽がうごめきだそうとしている。
焦らすような動きに、下腹部のへの手淫。ある意味腰の動きよりも苦しくて、行き場を無くした液体がドクドクと脈打ってくる。
「くぅ…」
「………」
瞳に小さな涙を浮かべる雷龍に、風龍は何やら考える。
「苦しいの?」
震える唇に軽く口付けて、指先の動きを止めた。
収まると同時に、雷龍から苦痛の色が僅かに緩める。
それを見て、風龍は薄く笑うと、名残惜しそうに首筋を一舐めし、雷龍から自分を引き離した。
「んぁ…」
クプリ、と湿った音がする。
風龍が全てを抜き去ると同時に、トロリとした液体が、蜜が滴るように体内から流れ落ちた。
一筋、二筋と道を作り、雷龍の白い太股を滑り落ちる。
入り口はまるで、もっとして欲しいかのようにひくひくと痙攣し、もっと解き放ってほしいと言わんばかりに、受け入れた液体を体の外へ押し出した。
「嫌だ…見るな………」
自分からは見えない下腹部の醜態に、雷龍は体を捩り隠そうとする。
だが、体勢が悪くて雷龍の体は思うようには動かず、滴り落ちる液体がその勢いを増したにすぎない。 太股を滑る感覚に、雷龍は唇を噛み締めた。
「なかなか良い眺めだね」
液体を指先で拭い取る。
だが粘りのついた液体は伸び縮みして、完全には離れない。諦めたか、風龍は太股を撫で回した。
白い太股に擦り付けられた液体は月光にてらてらと反射し、まるでケーキを彩るデコレーションの様に妖しい魅力を引き付ける。
風龍の背筋に、ぞくりとした感覚が走った。
「ねえ、もっと見せてよ」
風龍は雷龍の両足を掴んだ。自分の方へ近づけ腰を取ると、突き出すように持ち上げる。
「あっ」
腹部に圧力がかかる。雷龍の内部に溜め込まれていた液体がドクドクと溢れ出した。
塗りたくられた太股から風龍の太股へ、液体が流れ落ちていく。
「嫌だ…見るなっ!」
雷龍の叫びが響く。
無言で風龍は指先を差し伸べ、人差し指で入り口の液体を拭い取る。
見れば、だらしなく伸び切ったその場所から、コンデンスミルクを容器から絞り出すように、間を置きながら液体が吐き出されている。
試しに人差し指を当ててみた。
少しの間は保ったものの、すぐ溢れ出し、指先の両側から滑り落ちる。
「中は、どうなっているのかな?」
片手を人差し指。もう片方を人差し指と中指。風龍は先程と同じように入り口を拭い取ると、指先を雷龍の中に差し入れた。
「あうっ…」
体の中へ再び異物が入り込む。
一度根元まで差し入れられると、指先をくい、と曲げて内側をかき回し、半分まで引き抜き、差し入れる。
「あ、あうっ……っく…あ、あうっ」
雷龍の瞳からは、相変わらず涙が溢れ出ている。だが心とは裏腹に、体の奥に痛みとも痒みともつかない不思議な感覚が湧き起こる。
「ふぅっ……うぅ…う…ん…」
行為に翻弄されながら、眉間へ皺を寄せて切な気な喘ぎを漏らした。
「雷龍のここ、すごく柔らかい。点心みたいだよ」
反応を楽しみながら、二本の指で入り口を押し広げ、中の様子を興味深そうに見つめる。
風龍はそっとその場所へ口付けを与えた。ただ唇が触れているだけなのに、自分自身の電撃を浴びたかのように全身に刺激が行き渡る。
雷龍は逃れようと身をよじらせたが、風龍は簡単には許さない。両足を強く引き寄せて、雷龍のそこがもっと見えるように大きく開かせる。
「かわいいよ、僕の雷龍」
風龍はにやりと笑った。
軽く太股を一舐めして、雷龍を膝の上から降ろす。
「ん……」
床の上に頬を寄せて、雷龍は小さく呻き声を漏らした。
胸の中へ失った酸素を送り込もうと、胸を激しく上下する。そして、それに会わしてか、雷龍の入り口も苦しげに口を開き、液体が涙のように零れ落ちた。
「すっかり熟れたようだね。これなら入りそうだ」
弄ぶ様な風龍の言葉に、何も言い返す事が出来ない。雷龍は荒い吐息を繰り返す。
風龍の視線が、雷龍から背けられた。
「!!あうっ」
雷龍の体へ異物が銜え込まれた。
指先よりも太い、だが固く冷たくて嫌な感覚、である。
「何…を……?」
正体の分からないものを含まされ、不安が広がっていく。
「大丈夫、芯は抜いてあるから」
「なっ…!」
「見てよ、ほら。君のここはとても嬉しそうだよ」
促すように指先を滑らせる。
その先には、先程まで犯され続けていた場所に銜え込まれたのは、風龍の装備、ジャオダンジーから発射される弾薬が、彼の内部へと入り込んでいたのだ。
異物に、雷龍は逃げだそうと体をずり上がらせた。
「でも気をつけてね。僕はおっとりとした性格だから、もしかしたら取り忘れてるかも知れないよ」
言いながら、弾薬を奥へと進ませる。
こいつならやりかねない。
そう思ったか、暴発するかもしれないという恐怖に包まれ、雷龍は体を強ばらせる。
弾薬は風龍の物より小さいものの、雷龍の内部を掻き回すには十分だった。
風龍はそれを片手で巧みに操りながら、熱く潤んだ内部を、こすり付けるように深々とえぐる
クチャクチャという音が雷龍の耳元を犯し、体を苦痛と共に高ぶらせる。
だが意志とは裏腹に、自然と腰が浮き上がった。
「気持ちいい?こんなので感じちゃうなんて、雷龍はよっぽど大好きなんだね」
自分がそんな体に仕立て上げたのを棚に上げ、これが彼本来の姿だと言いかける。
張り詰めたそこは、最後の時を許されずに先を反り上げていた。
シュル…
「えっ?」
間のぬけた声を出す。
風龍は下腹部に手を伸ばした。締め付けられ、苦しむ様に空を仰ぐそれに、風龍は優しく撫でた後、食い込むように縛り付けた鎖を取り外したのだ。
「あっ……」
雷龍の体が跳ねた。
押さえつけられていた流れが戻り初め、少しずつ、本来の勢いを取り戻す。
「あっ…あっ……あぁ…あっあぁぁぁ」
達する事が許された体は、下腹部の快楽を素直に受け止めた。弾薬の動き、意志あるかの如く内側を蠢き、快楽の渦を起こさせる。
「んあぁ……!はぁ…ぁあ」
今まで、苦痛のみだった言葉に甘い吐息が含み始めた。押さえつけられた苦痛は既に存在しない。
十分過ぎる程に熟れたそこは弾薬をすんなりと包み込み、やがて自ら腰を動かす。
悲鳴に甘い響きを見せ始めた頃、突如風龍は雷龍から弾薬を引き抜いた。
「っ……!!」
弾薬は雷龍の体液で濡れ、糸を引きながら妖しい光を放っている。
「はい、ご苦労様」
弾薬を床へ置き、うつ伏せの体をよこたえらせると風龍は囁いた。
戒めを解かれたのにも関わらず、最後を迎えられなかった物足りなさに雷龍は風龍を見上げる。
「お仕置きは終わったよ。もうおいたしちゃ駄目だからね」
悪戯をした子供に言い聞かせるような顔をして、風龍は頬に口付けた。
「…りゅ…」
何か言う暇も与えず、風龍の肌が自分から離れた。
長い間、ずっと触れ続けたせいか、急に空気の冷たさが肌を刺す。
「……」
「えっ、何だい?」
雷龍が何か呟いた。だが聞き取る事ができなくて、風龍は顔よせる。
「………」
「聞こえないよ?」
からかう様に、
「他の人とお話する時は、ちゃんと聞こえるように言わなきゃだめだよ」
ちょん、と鼻筋を指でつつく。
「俺…は」
自ら風龍を求めるまで、雷龍はまだ落ちていなかった。理性か、又はプライドか?きつく拳を握り締め、激しすぎる快楽を押え込もうとする。
「雷龍。僕に聞こえる様に言ってごらん?」
風龍は、雷龍の頬を優しく撫でた。泣き崩れた子供をあやす、母親のように……
「我が侭な子には、またお仕置きしちゃうよ」
耳元を甘く舐め上げた。
指先が体を滑る。頬から首筋へ、胸、腹、腰。だが、肝心な場所には触れようとはしない。
自分の中で、何かが切れた。
「風龍!」
たまらなくなって、雷龍は風龍の唇を奪い取った。絡み付くように舌を絡ませ、口内に押し入って歯列を割り、ちぎれる位に吸い付いた。
「風龍、風龍ッ、風龍ッッ!」
体が、求めている。嫌がっていた筈なのに、終わる事を望んでいた筈なのに……
「雷龍」
こうなる事を知っていたのか、突然の変貌にも動じない風龍は雷龍の首筋を舐める。
「風龍……」
「雷龍は、どうして欲しいんだい?」
胸元をまさぐる風龍の手は、雷龍の中の快楽を引きだそうとする。だが、もはや雷龍の体はそんな事だけでは満足出来なかった。
「……ほ…しい……」
「何が?」
「風……りゅ………」
雷龍の心が落ちる。風龍の元へ。
「僕の何が欲しいんだい?」
それでも風龍は言葉で雷龍を追いつめる。
そんな彼の言葉が悲しくて、雷龍は泣き叫んだ。
「知ってる…くせに…!……俺、が…風龍を……欲しいって……、感じたいって…解かってる……くせに…」
それから先は言葉にならなかった。子供の様にしゃくりあげ、愛してくれと駄々をこねる。
「僕にいい事して欲しいんだね」
にっこりと微笑えんで、瞳の裾に口付ける。
再び雷龍から体を放した。床へ座り込み、己の下腹部へと手を伸ばす。
「っ…………」
手を伸ばした先、嫌がる雷龍を犯し続け、今なお勢いを衰えない物を取り出した。
「雷龍、おいで」
ごろり、と床に横たえる。
高々と天を仰ぐそれに、一瞬、怯えたように縮こまる雷龍だったが、やがてその誘惑には逆らえず、四つん這いでゆっくりと近づいた。
二人の視線が重なる。風龍は、笑っていた。
「風龍……」
囁き、雷龍は風龍の唇に口付けた。冷たい、無機質な。そして、甘い口付けだった。
名残惜しげに唇を離す。身体をずらし、ひとつ小さく息を呑みこんで、自らの場所へとそれをあてがう。 雷龍はゆっくりと、風龍の上に腰を下ろした。
「っぁあ!」
ほんの僅か入り込んだだけで、その場所は液体を滴らせた。太ももを濡らし、深く招き入れようとする。
自分が何をしているのか考えただけで、雷龍の鼓動は高まるのを止めない。己の体に埋め込まれるものが、気が狂う程の快楽を生み出すのかと思うと、背筋に不思議な電流が駆け抜けるのだ。
「ぁぁ…」
反射的に体が締め付ける。僅かでも動かせば腰が抜けてしまいそうなのを堪え、身体を動かし始めた。
「う……んくぅ…はぁ……」
風龍の腹に手をかけて、腰を上下に揺り動かす。抜く度に、じゅぷっと湿った音がして、少しずつ雷龍の中に潜り込んで行く。
その光景を、風龍は静かに見つめていた。
彼が小さく笑っているのをまどろむ意識の中で聞いた様な気がしたが、ゆるりと腰を動かした途端、痺れる様な感覚に全身を犯され、何も考えられなくなってしまった。
「あ…っん…あぁん……」
欲望の求めるまま、自虐とも言えるほどに身体を責めたてる。
だが、次第に動きは遅くなり、殆ど動かなくなってしまった。
「どうしたの?もう終わりかい」
「ぁ……ち…がう………」
じっとしていても感じる感覚に、爪先が耐え切れないようにと床を蹴る。
「だめ…だ……風龍…いけ、ないっ……お前も…動いて……」
「そうだね…いいよ、動いてあげる」
腰に手を当てて、風龍はゆっくりと動かしてやった。
「んっはぁぅっ!」
自分とは違う動きに、雷龍の背が弓なりに仰け反る。ビクビクッと体が痙攣し、悲鳴を上げる。構わず風龍はもう一度腰を突き上げて、体が反応するのを見届けてから、腰の動きを徐ヶに大きく、早めていった。
「やあっ…、はぁ……あああぁっ!」
雷龍の声に苦痛と快楽の声が入れ混じり、高く突きつけられた衝撃に、体が壊れてしまうのではないかと思う程、奥深くに風龍が入り込んでいく。
「あぁぁっ…んぅ……はっ……」
風龍の胸で上半身を支える両腕がガクガク震えている。打ち付ける快楽に頭を振り、風龍にあわせて腰を動かした。
「あぅ、い…ぃい!……もっと…強くっ!」
両腕が疲れ、風龍の胸元に倒れ込んだ。しかし、より激しい快楽を求め腰の動きは止まらない。休む間もなく動き続け、貪るように締め付ける。
「もっとかい?じゃあ」
すす、と腰から手を放す。安定が悪くなって打ち付ける勢いが弱まると、僅かだが雷龍から力が抜けた。 その一瞬の隙を風龍は見逃さない。素早い動作で床へ転がっていた弾薬を再び差し入れた。
「痛っ!」
ぴったりと内部を埋め尽くしていた場所へ別の物が入り込むと、体液に薄い緑色の液体が交ざる。
「だめ…裂け、る……」
下半身に痛みが走り、一瞬目の前が遠くなる。動く度に液体の濃さは増え、少しずつ裂けていくのが解る。
「すごい、もうこんなにきつくなってる」
何度も弾丸を抜き差しするが、強く押し戻そうとするような締め付けに、中々上手く入らない。
「ゆっくりと、力を抜いて」
言われるままに雷龍は腹の力を抜くと、締め付ける力が緩んだ。それを、風龍は強く押し入れて、残った部分を根元まで飲み込ませた。
「はうっ……くぅぅぅんっ」
今度こそ、無理な挿入にそこは完全に裂けた。だが痛みすら快楽と認識し、我を忘れて腰を動かす。液体は腰の動きを手伝い、少しずつその動きを滑らかにした。
「そう、いい子だね」
風龍は嬉しそうな笑みを浮かべて、ゆっくりと腰を動かしながら、自分の物を出し入れさせる。最奥まで差し入れ、乱暴に引き抜く。浅い所で遊ばせて、一気に押し入れる。それを何度も繰り返した。
「うぅ…はぁ……はあっ、はあぁぁ!」
「いいでしょう、とても」
耳元で囁かれる言葉は、さながら悪魔の誘惑の様に甘く心地よい。風龍の動きが激しくなるにつれ、雷龍の快感も大きくなる。
「あぅ……ぁ…もう、だ…めぇ……」
快楽に耐え切らなくなった雷龍が、息絶えに哀願する。
「ちがうよ、雷龍」
顔を近づけ、囁く。
「『いかせて下さい』でしょう?」
にやっと笑うと、腰の動きを遅くする。
「っ!…い、いかせて…くだ、さい……」
快楽に我を忘れ、雷龍は全てを投げ捨てる。
その言葉に満足げに微笑むと、最後を迎えるべく、腰を高く突き上げた。
「きゃうっ…ん……ぁ…あぁぁーーーーー!」
熱い液体が際奥へ叩き付けるように放たれる。
それが体の中へ吸収されるのを感じながら、雷龍は欲望を解き放った。








「う…ん………」
淡い佳月の差す廃工場。
だが、ふと気がつけば、見慣れた天井が視界に写る。
重い瞼がゆっくりと開き、まだ視線の定まらない瞳で辺りを見回せば、そこはいつものメンテナンスルームだった。
「起きたかい」
穏やかな声が耳元を燻るように囁かれる。
空ろげな視線の先に見付けたのは、朝の補給の準備をする風龍だった。
「風…龍?」
部屋に設置されている時計を見る。
AM:4:00
朝の起床時間であった。
テーブルには、二つのカップ。
それに燃料を注ぎ込むと、風龍は片方を雷龍に差し出す。
「飲むかい?」
横たえていた身を起こし、差し出されたカップを受け取った。
「先輩達は先に行っているよ。僕が起きたら居なかったからね」
自分のベッドに腰掛け、カップを傾ける。
「雷龍も、それ飲んだら行こうね」
いつもと変わらない優しい微笑み。
だけど今は、それがとても苦しく見える。
「……雷龍?」
不思議がって、弟の名前を呼んでみた。何時もなら、一つ上の炎竜に似て朝から騒がしいのに、何故か何時もと様子が違う。
考え事をするように、じっと俯いていた。
「雷龍、どこか具合が悪いのかい?」
心配げに、風龍は手元のカップを置くとベッドから立ち上がり、雷龍の顔を覗きこむ。
「風龍…」
風龍の視線が自分に重なる。
途端に、今にでも泣き出してしまいそうな顔になって、雷龍は風龍に抱きついた。
投げ出されたカップが床へと落ちて、液体が撒かれる。
心の中が熱い。炎の様な思いが沸き起こる。
ぎゅっと背中を抱きしめて、風龍の顔を覗き込んだ。
「だめだよ」
雷龍の思いを裏切り、風龍は背中から腕を外した。
「もう朝だよ。そんな事したら、皆に迷惑がかかるじゃないか?」
「でもっ!」
半分自棄になって叫ぶ。
「でもじゃないよ」
穏やかだけど、威圧の篭った声。
叱られた小犬の様に身を引いた。
[こちらメインオーダールーム。風龍、雷龍。朝のミーティングを開始する。早くこっちに来てくれ]
部屋の中にアナウンスが流れる。どうやら、ビッグオーダールームに集まっていないのは二人だけらしい。
「雷龍、僕は先に行くからね」
黙りつづける雷龍に言う。
「落としたカップの後始末が終わったら、すぐ来るんだよ。解ったね」
「…解った」
風龍の言葉に、雷龍は素直に頷いた。
いや、本当はそうで無いのかもしれない。だけど彼はそうする事しか無かった。
拒否する事が、出来なかったのだ。
踵を返し、風龍は部屋を出て行く。
彼が出て行った扉を、雷龍はただ、悲しそうに見つめていた。








逆らえない そう、永遠に
抱かれる度に、雷龍は思う。
人ではない、彼らのみが住む事の出きる仮想の現実(ヴァーチャル・スペース)
本来ならば、睡眠中のシミュレーションとして備えられた設備だったが、その世界でいつしか雷龍は、己の分身である風龍との情事を交わす事となる。
最初の内は抱かれる事に戸惑いを覚えていた雷龍だったが、肌を重ねる度に深く、熱く燃え上がっていた。
逃げ出す事は簡単だ。だがそうしたら、二度と愛される事は無いだろう。
風龍を失うのが恐かった。
だから、雷龍は逆らわない。たとえどんな仕打ちを受けたとしても、深く傷つけられたとしても。
離れたくない。たとえこの身が堕ちようとも。
禁断の愛に溺れ、偽りの世界で許されぬ情事を繰り返し、欲望の果実を口にする。

永久(とこしえ)の闇の中、唯一つの思いを胸に刻み付けながら。



おわり




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